Grün

150頁
8行目
羊はブルー・ドゥ・メインという頭が白く目の突きでた多産な品種で…
Es war ein Bleu-du-Maine-Schaf, eine fruchtbare Rassemit bläulichem Kopf und vorstehenden Augen.
 フランス原産の羊で、品種名にその特徴があらわれている。頭が青い(bläulichem)のである。

羊はブリュー・ドゥ・メーヌという青みがかった頭部と突きだした眼に特徴がある多産な品種だった。

151頁
11行目
ペーターソンは、フィリップ・フォン・ノルトエックと面識がないわけではなかった。
Petersson hätte Philipp von Nordeck beinahe nicht erkannt.
 「面識がないわけではなかった」では、同頁15行目「ペーターソンは彼のことを子どもの頃から知っていた」と矛盾する。フィリップのことはよく知っているのだが、今は変わり果てた姿をしているので、ほとんど誰か分からなかったのである。

ペーターソンはあやうくフィリップ・フォン・ノルトエックだと気づかないところだった。

152頁
6行目
フィリップは両手にいつまでも湯をかけていた。湯が赤く染まり、鏡が曇った。
Er ließ lange das heiße Wasser über seine Hände laufen, sie färbten sich rot, der Spiegel beschlug.
 「赤くなった」のがお湯なら主語は中性単数 es でなければならないが、ここでは複数 sie になっている。したがって、これが指すのは seine Hände である。凍えて白くなっていた両手に血色が蘇ってきたというわけである。

フィリップは蛇口から出るお湯に長いこと両手をさらしていた。ようやく両手に血の気が戻り、鏡が湯気で曇った。

157頁
1行目
そこからは海を眺めることができ、カモメの鳴き声が聞こえた。
Man konnte von hier aus das Meer und die Schreie der Möwen hören.
 hören は海とカモメの鳴き声の両方にかかっている。

そこからは潮騒とカモメの鳴き声を聞くことができた。

159頁
7行目
倒錯はすぐエスカレートする。
»Perversionen«, sagte er, »tendieren nach Rasch dazu, sich zu steigern.…«
 「すぐエスカレートする」では、2行後の「しだいにエスカレートする」と矛盾する。nach Rasch の Rasch を形容詞 rasch (速い)の名詞化ととらえたのだろうが、それならば Raschem と格変化しなければならない。これは人名である。2行後に登場する精神鑑定の老大家、ヴィルフリート・ラッシュのことである。

ラッシュの説によれば、倒錯行動はエスカレートする傾向がある。

163頁
7行目
被疑者を勾留したときは、その必要があったかどうか審査しなければならないと法律で定められている。
Im Gesetz heißt es, dass zu prüfen sei, ob gegen den Inhaftierten ein sogenannter dringender Tatverdacht besteht.
 拘留審査は、『サマータイム』にも『正当防衛』にもでてくる公判前の手続であり、112頁3行目の括弧書きに簡潔な説明があるが、ここでは完全に誤解されている。
 刑事訴訟法117条に規定されている拘留審査は、拘留中の被疑者側からの請求があってはじめて行われる(実施は請求から2週間以内)。翻訳のように、拘留したら必ず開かれるものではない。また、拘留を継続するかそれとも直ちに釈放するかを決めるのであって、拘留の必要があったかどうかを事後的に審査するものではない。拘留継続のためには、有罪の「明白な疑い」が存在する必要がある。
 弁護側にとっての拘留審査のメリットは、釈放のチャンスが生まれることだけではない。拘留審査が請求されると、検察側はそれまでに作成した調書類を弁護側に開示しなければならず、検察の手の内を知ることができるのである。
 ちなみに、『サマータイム』の115頁2行目で「私」が調書を閲覧できたのは拘留審査を請求したからである。また、119頁6行目で拘留審査の請求を直前で取り下げたのは、監視カメラの映像という新証拠の発見によって拘留継続の決定が下されるのが必至となったためだけでなく、拘留審査には一般的に公判の開始を早める効果があり、対策の時間が少しでもほしい弁護側にとってマイナスにしかならなくなったからである。

法律には、被拘留者に対するいわゆる「明白な容疑」が存在するか否かを審査すべしと規定されている。

163頁
15行目
さらなる捜査を行うため、フィリップは十二日間の制限いっぱい拘留されるということだ。
Das bedeutete, dass er die 14-Tages-Frist ausnutzen wollte, um weitere Ermittlungen abzuwarten.
 14と数字ではっきり書いてあるのに……。

すなわち、十四日間の猶予を与えてさらなる捜査を待ちたいということである。

164頁
6行目
信用されているから、電話をしなくても大丈夫だと思っていたのだ。
Ihre Eltern vertrauten ihr, sie dachte, sie würden ohnehin nicht von sich aus anrufen.
 「電話をしない」の主語 sie は複数だから、ザビーネではなく両親である。宿泊先になっている女友だちのところに両親が電話してくることはなかろうと高をくくっていたのである。

両親は彼女のことを信用していたし、たとえ信用していなくてもわざわざ女友だちの家に電話するはずはないと思っていた。

165頁
4行目
クラウターは、その手はずを調えると約束してくれた。
Krauther nahm mir das Versprechen ab, mich darum zu kümmern.
 検察官はそこまで面倒みてくれない。必ずフィリップを病院に連れて行くよう「私」に保証させたのである。

クラウターは、私がその手はずを調えることを正式に約束させた。

167頁
4行目
全部破壊しなければいけないんだ。
…, sie werden alles zerstören.
 sie は羊の目玉のことであり、受動態ではなく、未来形である。羊の目玉は禁断の実と同じように世界を堕落させるというのである。

あらゆるものを破壊してしまうんだ。